■保守は過去の革新を保守する


佐藤一進『保守のアポリアを超えて』NTT出版

佐藤一進様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 大変な力作であると思います。保守主義にふさわしい良質な文体であり、独立した思考の成果です。
 90年代以降になって、保守主義が自由市場経済をラディカルな形で擁護するようになり、はたしてそのような主張のどこが保守なのか、ということが問題になりました。
 それまで進歩主義社会主義を擁護してきたこともあり、その反動として、自由市場経済を擁護する立場が「保守」とされるのは、イデオロギーの図式からしても当然のことでしょう。
 ただ2000年代になって、グローバリズムが席巻すると、今度は世界市民の立場から国策を論じる進歩派に対して、ナショナリズムを擁護する保守の立場が現実的なものとして現れました。
 しかし、保守主義者が擁護しようとしている制度とは、決して保守主義者が生み出したものではないですよね。制度には自生的に発展してきたものもありますが、それぞれの時代に、進歩主義者や革新的な創造者たちが生み出したものも多いですよね。そういう制度を、保守主義者が擁護するということも、あるかと思います。
 ただそれが悪いわけではありません。革新者は、過去の革新者に敬意を払うとしても、新しい革新を目指すのであって、たんに過去の革新を擁護するのではないですからね。保守主義者とは、過去の革新を保守する立場であり、現在の革新を嫌悪する立場です。過去の革新には、もっと別の面があり、保持するに値するのだ、という新たな解釈を加える立場なのでしょう。このような解釈活動がないと、そもそも伝統というものがうまれず、なにが革新的であるのかの基準もあいまいになってしまいますね。
 本書が提起している根本問題は、法の支配が停止するような「例外状況」において、保守主義はどのように対処しうるのか、ということ。
 その答えは「保守するべき伝統を解釈する際の、方法としての人文主義」であり、その技法が大切というものです。そのような技法を通じて、保守主義は社会に貢献するのだとすれば、政策的には多様な立場であり得るのでしょう。