■方法よりも理論がほしい


政治理論とは何か

政治理論とは何か

井上彰/田村正樹編『政治理論とは何か』風行社

井上彰様、田村正樹様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 政治理論を研究する人たちが、これからどのような方法でもって研究を進めていくべきかについて、最新の議論を紹介・検討したものです。
 真に新しい理論は、おそらく新しい方法とともに、いろいろな仕方で生まれるのでしょう。だから前もって、「この方法がいい」という言い方はできないのでしょう。けれども、これまでの政治理論がどのような方法に基づいていて、またどのような限界があって、その限界をどのように克服していくか、ということは大いに検討に値します。
 でも本書のなかで、盛山和夫論文が指摘するように、新しい政治理論のための方法を考えると言っても、肝心の政治理論そのものが、リーマンショック社会保障のような現実の問題に対して、ほとんど関心を示していないというのは、やはり危惧すべきですね。どんなに簡単な理論でもいいから、こうした問題を規範的に考えるツールを私たちは必要としています。
 他方で、概念分析の成果として、ベン/ピーターズ『社会的原理と民主国家』、ハート『法の概念』、ブライアン・バリー『政治論法』、などの1960年前後のオックスフォード大学を中心とする諸成果は、振り返ってみると評価に値しますね。日常言語の分析というアプローチと呼応して、概念分析に新たな深化がありました。ただ、現在のようにグローバル化がすすむと、それぞれ国の日常言語の分析から、政治哲学のキー概念を分析するというのは、限界があります。そこをどう考えるべきか。むしろ個々の日常言語にとらわれずに、新たな枠組みを提起してもよいのかどうか。あまり一般化して考えても仕方ないですけれども。