■生活革新型の経済成長


盛山和夫社会保障が経済を強くする』光文社新書

盛山和夫様、ご恵存賜りありがとうございました。

 ピケティは『21世紀の資本』のなかで、次のようなことを述べています。
 戦後の日本は、政府の介入規模を増やしても減らしても、およそ経済は成長しただろう、と。
 同様に、90年代以降の日本も、新自由主義的な規制緩和政策を採用しようがしまいが、低成長経済になった、ということなのでしょう。
 歴史のトレンドからすれば、経済政策の論議というものは、「対立するどちらの政策でもいい」ということになってしまいますね。
 それでも、日本経済が「社会保障費」の健全な増大によって成長すべきであるのかどうか、それが争われます。
 本書は、鈴木亘社会保障亡国論』を批判するかたちで、議論を展開しています。
 医療費が増えて、それで医療を通じた経済活動が活性化してGDPが増えれば、それがよい社会である、というわけですね。
 高齢化社会において、高齢者がいかに経済発展に貢献できるかを考えたとき、医療費を惜しまずに支出するのがよい、ということですね。
 社会保障費のうち、医療・介護・保育などのサービスは、「国民所得」の構成要素になります。これを増やしていくことは、多くの場面で、「家事労働の市場化」をもたらします。そのような市場化によって、GDPの増大に寄与するでしょう。
 問題は、GDPを増やすべきだとして、政府が補助するのであれば、プライマリー・バランスを保てるのか、ということですね。やはり増税することは前提なのでしょう。どこまで増税を受け入れるのか、そのバランスが問題ですが、いずれにせよ、「生活革新型」の成長というのは、一つのビジョンの提起だと思います。