■古典派と新古典派の違いとは


経済学を再建する―進化経済学と古典派価値論 (中央大学企業研究所研究叢書)

経済学を再建する―進化経済学と古典派価値論 (中央大学企業研究所研究叢書)

塩沢由典・有賀裕二編『経済学を再建する』中央大学出版部

吉井哲様、ご恵存賜りありがとうございました。

 ご論文「価格と数量の同時決定体系への転換」を興味深く拝読しました。
 また研究会でのご報告もありがとうございました。
 新古典派とそれ以前の古典派の価格理論を分ける際のメルクマールは、なんでしょうか。
 ミルまでの古典派においては、価格決定の等式は、ある「均衡への傾向」を表すものと解釈できます。これは均衡にいたる経緯についての「過程分析」といえます。
 これに対して新古典派では、価格決定の等式は、方程式であり、それぞれの項が関数となる同時決定体系として想定されることになります。
 ただ問題は、1870年代以降の新古典派と、1950年代にとりわけ流行した実証主義による新古典派方法論は、異なるだろう、ということです。
 レーヨンフーヴッドは、1993年の論文で、マーシャルもまた「過程分析」だった、と解釈しています。マーシャルは古典派に戻ったのでしょうか。少なくとも戻る要素があったのでしょうか。
 またメンガー以降のオーストリア学派の特徴は「過程分析」である、といわれることがあります。新古典派の一翼を担ったオーストリア学派も、方法論的にはワルラス主義や実証主義と、だいぶ異なりますよね。
 いわゆるワルラス・モデルというのは、1950年代以降になって、新たに解釈された「新古典派像」であるのではないでしょうか。ワルラス自身も、じつは過程分析の要素を持っていたのかもしれません。同様の疑問は、メンガー、ジェボンズにも投げかけることができます。
 いずれにせよ、1950年代以降になって、新古典派理論を「実証主義の観点から再解釈」する動きがあり、それが私たちの通念を形成しているようにも見えます。
 この理論体系を別様に解釈する流れもいろいろあり、それで理論のメタレベルにおいて方法論が争われるわけですね。