■法哲学の入門書 最も分かりやすい

法哲学

法哲学

瀧川裕英・宇佐美誠・大屋雄裕法哲学有斐閣

瀧川裕英様、宇佐美誠様、大屋雄裕様、ご恵存賜りありがとうございました。

 法哲学の教科書として、とても分かりやすく書かれています。最新の難しい議論について解説する際にも、分かりやすさを追求することに、かなり心を砕いたのではないでしょうか。とても勉強になりました。
 全体で12章のうち、最初の4つの章のテーマは、経済思想や政治哲学と重なります。功利主義、正義(とくにロールズの分配的正義)、自由、平等というテーマです。法哲学以外の学徒にも、すすめたいです。
 新自然法論のフィニスは、ハートやラズの記述主義に対して批判しています。法を記述するために、なにが中心的で重要であるのかを記述するためには、「内的視点」から記述しなければなりません。ところが「内的視点」といっても多様であり、内的というだけでは、何が重要であるのかについて適切な判断ができないかもしれません。その場合には、「実践的な適理性」に基づく判断が必要になるというのですね。それは「人格の諸側面、相互行為の諸条件、人間の繁栄など」に関する規範的判断になる、というのがフィニスの議論です。
 フィニスは、自然法論の起源がアクィナスの命題の浅い読み替えに基づくものだとして、これに対してアクィナス的な善の共同体的理解に基づく規範判断を、自然法に新たな解釈として持ち込みました。それだけでなく、規範的判断は、分析法理学を含む社会科学と、社会科学の経験的知見を動員して、はじめて可能になると考えます。こうした探究の方向性は、なるほど内的視点による価値判断を絞り込む際に、有効なのでしょう。
 ただ、各人が自分の選好や嗜好に基づいて基本善を恣意的に否定してはならない、とみなすとなると、「不健康に生きる自由」とか「愚行権」のようなものは、どのように位置づけられるのでしょう。フィニスを読まなければなりませんが、フィニスのアプローチが、多様性を完全には縮減できないとすれば、やはり内的視点の多元性という問題は残るかもしれません。