■市場秩序は、どのように正統化されるのか

アンドレ・オルレアン「コンヴァンシオン経済学:定義と成果」[I][II]須田文明訳、岩手県立大学総合政策学会『総合政策』第17巻、いずれも第2号、所収

須田文明様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 オルレアンは、私が「こうありたい」と思う思想家の一人です。大変興味深く読みました。
「コンヴァンシオン」概念の定義は、次の四つから構成されます。(1)集団PのすべてのメンバーがRに順応する。(2)各メンバーは、他のメンバーすべてがRに順応すると思っている。(3)各メンバーは、Rに順応するための妥当で決定的な理由を見出している。(4)少なくとも、別の規則性R’が、支配的になりえたかもしれないという可能性がある。
 この定義でいくと、コンヴァンシオンにおいて問題となるのは、他でありえたかもしれないのに、なぜRというコンヴァンシオンが決定的な仕方で正統化されうるのか、ということでしょう。
 例えば、労働市場において売られる労働力は、不確実な要素がたくさんあるため、市場では「教育シグナル」つまり学歴が、価格決定のための要因となります。学歴に応じて人事を決めることが、一つのコンヴァンシオンとなります。その正統性は、学歴の形成過程が、はたして正統であるかどうかに依存しているでしょう。むろん、そこには「支配的権力の介在」があり、決して決定的な意味で正統化できるわけではありません。教育におる学歴選抜の方法には、つねに「他の可能性」がありうる。労働市場の正統性は、そのような教育制度が、批判に耐えうる正統性をもっているかどうかに依存している、ということになるでしょう。
 金融市場におけるコンヴァンシオンは、自己言及的であり、外部に正統性の根拠をもたないようですね。
 これに対して主権貨幣におけるコンヴァンシオンは、特権的に貨幣を印刷して公債を発行することができる主権の正統性に依存しています。主権は市場の外部にあるので、この場合の正統性もまた外部にあって、自己言及的ではない、ということでしょう。
 それぞれの市場は、それぞれの仕方で正統性を見いだすことになりそうですが、いずれにせよ、コンヴンシオンは、それに従うことや順応することが、それ自体として慣習的な正統性(伝統的支配の正統性)を生むのではない、という理解は大切だと思います。