■オーストリア学派とロビンズ

経済学の本質と意義 (近代社会思想コレクション)

経済学の本質と意義 (近代社会思想コレクション)

ライオネル・ロビンズ『経済学の本質と意義』小峯敦・大槻忠史訳、京都大学学術出版会

小峯敦さま、大槻忠史さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 私は大学の学部生のころに、間宮陽介先生の研究室を訪ねたことがあります。その時に間宮先生から、とにかくこのロビンズの本を読め、と言われて読んだことを思いだしました。そのときに私は、本書の詳細なレジュメを作りました。この本が新たな訳で読めるようになったことを、心から喜びたいと思います。
 「訳者解説」を興味深く読みました。
 本訳書は第二版に基づくものですが、初版と第二版の大きな違いは、次の点にあるのですね。
 初版では、ロビンズはミーゼスの方法論に大きな影響を受けて、オーストリア学派の思考方法をイギリスに紹介します。ロビンズはオリジナルな経済学者というよりも、オーストリア学派の知見をうまり整理して紹介するのが上手な秀才型の経済学者でした。
 第二版ではしかし、ロビンズはオーストリア学派の方法論から少し離れます。LSEの同僚であるヒックスとアレンが「価値論再考」を1934年に発表すると、無差別曲線やスルツキー分解など、需要理論に関する演繹的な数理が導入され始めます。すると合理性の定義は、目的と手段の主観的な適合化ではなく、「推移性」などの論理的操作として客観的な表現を与えられます。逆に言えば、合理性の定義は、主体の目的-手段の捉え方から遊離していくことになります。
 ロビンズはとくに、本書の第四章の大部分と第五章第一節を書き換えることで、LSEにおける新たな客観主義の流れに沿って、経済学の方法論をまとめ直したのですね。
 実際、ミーゼスはこの書き換えに対して不満を表明したというのは、興味深い事実です。