■アメリカ人の幸福度は急落している
経済は、人類を幸せにできるのか?――〈ホモ・エコノミクス〉と21世紀世界
- 作者: ダニエル・コーエン,林昌宏
- 出版社/メーカー: 作品社
- 発売日: 2015/09/30
- メディア: 単行本
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ダニエル・コーエン『経済は、人類を幸せにできるのか?』林昌宏訳、作品社
林昌宏さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
アメリカの幸福度指数の推移は特異で、過去50年間で急落したというのですね。1956年から2006年までのあいだに、「とても幸福だ」と思う人の割合は三分の一も低下していると。
どうも社会が成熟すると、人々は謙遜して、「あまり幸福でもない」とへりくだるようになるのでしょうか。
それとも人々は、世界の状況を知るようになると、自分の幸福を相対化する視点を得るようになるのでしょうか。
あるいは、経済成長率が安定的に推移する場合には、経済が急激に成長する社会と比べて、幸せを感じにくくなるのでしょうか。
1950年代の所得水準に戻れば、アメリカ人は「とても幸せ」になるというわけではないでしょう。
本書にはまた、ブレイが論じる「幸福の10か条」が再掲されています。
しかし、「自分が天才でないことを悲観するな」とかいった教訓は、人々を幸せにするのでしょうか。
幸福は、パラドクスに満ちています。人々がそれぞれ、「自分が幸せになるように」という指針で生きようとすると、その意図せざる結果として、他者、とくに将来世代の人々を不幸にしてしまうかもしれません。
例えば幸せになるためには、ガツガツと働かないことが必要である、とミニマリストたちは啓もうします。しかしすべての人がミニマリストになったら、経済は収縮し、次世代の人たちは私たちの世代よりも、総じて幸せになれないかもしれませんね。そういうパラドクスがあるとすれば、私たちは「とても幸せ」を目指して生きるべきではないし、またそれは、経済の目標にもすべきではないでしょう。倫理の問題をそれのみで考えるのではなく、経済倫理の問題として考える視点も必要、と思いました。