■アメリカ人の幸福度は急落している


経済は、人類を幸せにできるのか?――〈ホモ・エコノミクス〉と21世紀世界

経済は、人類を幸せにできるのか?――〈ホモ・エコノミクス〉と21世紀世界

ダニエル・コーエン『経済は、人類を幸せにできるのか?』林昌宏訳、作品社

林昌宏さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 アメリカの幸福度指数の推移は特異で、過去50年間で急落したというのですね。1956年から2006年までのあいだに、「とても幸福だ」と思う人の割合は三分の一も低下していると。
 どうも社会が成熟すると、人々は謙遜して、「あまり幸福でもない」とへりくだるようになるのでしょうか。
 それとも人々は、世界の状況を知るようになると、自分の幸福を相対化する視点を得るようになるのでしょうか。
 あるいは、経済成長率が安定的に推移する場合には、経済が急激に成長する社会と比べて、幸せを感じにくくなるのでしょうか。
 1950年代の所得水準に戻れば、アメリカ人は「とても幸せ」になるというわけではないでしょう。
 本書にはまた、ブレイが論じる「幸福の10か条」が再掲されています。
 しかし、「自分が天才でないことを悲観するな」とかいった教訓は、人々を幸せにするのでしょうか。
 幸福は、パラドクスに満ちています。人々がそれぞれ、「自分が幸せになるように」という指針で生きようとすると、その意図せざる結果として、他者、とくに将来世代の人々を不幸にしてしまうかもしれません。
 例えば幸せになるためには、ガツガツと働かないことが必要である、とミニマリストたちは啓もうします。しかしすべての人がミニマリストになったら、経済は収縮し、次世代の人たちは私たちの世代よりも、総じて幸せになれないかもしれませんね。そういうパラドクスがあるとすれば、私たちは「とても幸せ」を目指して生きるべきではないし、またそれは、経済の目標にもすべきではないでしょう。倫理の問題をそれのみで考えるのではなく、経済倫理の問題として考える視点も必要、と思いました。