■SFの時間レトリック


時間SFの文法: 決定論/時間線の分岐/因果ループ

時間SFの文法: 決定論/時間線の分岐/因果ループ

浅見克彦『時間SFの文法』青弓社

浅見克彦さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 精神が攪乱したり旋回したりするような時間の感覚は、実際にそのようなことを経験していない場合に、どのようにして想像できるのかといえば、それは代理となる経験によって間接的に想像力を働かすことによってです。ではどのような代理経験が参考になるのかといえば、それは例えば、のたうち回るような身体の感覚といったものでしょう。
 あるいは、「溶けるような時間」というものは、どのように感じられるのでしょう。代理となるのは、酩酊(めいてい)に陥った身体の感覚ですね。あるいは回転木馬に乗っている感覚とか。
 いずれにせよSFでは、ありえないような時間の感覚を想像してもらう場合に、人々がこれまで経験したことのある出来事を参照しながら、そこから想像的な跳躍を起こしてもらうための工夫が必要になります。
 けれどもその工夫が難しい。想像の跳躍がうまくいくかどうかはリスクがあって、小説家の力量は、そのリスクを埋めるようなレトリックをいかに見つけるのか、というところにあるわけですね。