■戦後直後の文部省の平和認識

西田亮介編・文部省著『民主主義 1948-1953 中学・高校社会科教科書エッセンス復刻版』幻冬舎新書

西田亮介さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 戦後直後の文部省が「民主主義」というものをどのように考えていたのか、興味深く読みました。
 憲法九条をめぐって、文部省には次のような認識がありました。
 諸国が主権を放棄して、人類全体を一つの政治社会に統一すべきであるという見解があります。そのような「世界国家」の思想は、古くから提唱されてきたものです。
しかし、
 「地球上のすべての国々がほんとうの民主主義に徹底し、お互いの間に円満な協力の関係を維持していくように努力するならば、ことさらに世界国家を作らないで、今までどおりの国際社会のままですすむとしても、世界の平和は維持され、人類全体の福祉を一歩一歩と高めていくことができるであろう。その意味で、形の上での世界国家の建設よりも、真の民主主義の精神を全世界に広める方が、世界平和のための先決問題であるというべきであろう。」(241)
 このように文部省は主張しました。
 けれども戦後の日本はこれまで、民主主義の精神を全世界に広めるという努力を、どれだけしたのでしょうか。いずれにせよ平和を築くために、他国に対して、民主主義の精神を広めるような介入をするというのは、強い要求になりますね。
 またもし戦争が始まった場合、日本はどうすべきなのかについて、文部省は次のように考えました。
 「ますます大きくなりつつある戦争の規模を考えたならば、なまなかな(中途半端な)武力を備えたところで、国を守るために何の役にも立たないことが分かる。・・・だから、日本としては、あくまでも世界を維持していこうと決意している国々の協力に信頼し、全力をあげて経済の再興と文化の建設とに努めていくにしくはない。」(243)と。
 この文章は、「世界を維持していこうと決意しているアメリカの武力の協力を信頼して、日本は経済の再興と文化の建設に努力する」という具合に解釈できますね。いざとなったらアメリカが守ってくれるという信頼のもとに、憲法九条が正統化されているように読めます。
 この辺の認識が問われています。大いに議論すべきでしょう。