■女性と経済学の関係

日本における女性と経済学

日本における女性と経済学

栗田啓子/松野尾裕/生垣琴絵『日本における女性と経済学』北海道大学出版会

栗田啓子さま、松野尾裕さま、生垣琴絵さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 日本におけるフェミニズムの研究は、1980年代にピークを迎えたものの、驚くべきことに、経済学史の分野においてはほとんど研究されず、今日に至っていたのですね。日本の女性は、どのように経済学に出会い、また女性はどのように社会と関わっていったのか。経済学は女性を解放したのか、しなかったのか。本書は、日本における女性と経済学の関係を、学説史や社会史の観点からはじめて明らかにしたものであり、その出版の意義はきわめて大きいと思います。
 本書のテーマは二つあります。
 一つは、女性のための経済学教育が、どんな女性像を理想としていたのか。
 もう一つは、女性の経済学者がどのように活躍したのか。
 1910年代の黎明期に、一部の急進的な女学生たちは、「日本の社会の深部に組み込まれた抑圧・差別・暴力の諸相を白日の下に示し、それらの構造を解明すること」を経済学に求めました。
 他の女学生たちは、「新しい良妻賢母」の担い手になること、具体的には、家政のみならず社会(消費者団体?)事業に参加するような主体になることを、経済学に求めました。「主婦」というカテゴリーが誕生するのもこの時期ですね。
 第7章は、竹中恵美子氏本人による、自身の研究と女性労働運動、またその制度化の歴史を振り返るもので、たいへん興味深いです。男女がケア労働を平等に担いながら共に働くという理想に向けてのさまざまな理念と制度構想が述べられています。とりわけ、「男女ともに『ケアする権利』が保障される『時間確保型社会化』の方法」が、現代において到達した一つの理念とされています。