■訒小平のレトリック


エズラ・ヴォーゲル訒小平』聞き手=橋爪大三郎講談社現代新書

橋爪大三郎さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 毛沢東による文化大革命というのは、巨大化した官僚制度に抗して、ロマン主義的な共産主義の理想を実現するための運動だった、と理解することができます。
 すでに1950年代になると、毛沢東は事務的な仕事から退いて、官僚制を指導せず、雲の上にいる存在になっていた。だから毛沢東は、ロマン主義的な思想をもつことができた。国民党にはそれができなかったけれども、毛沢東は、ロマン主義の理念によって、人民の犠牲的な献身を引き出すことができたのですね。
 でも、そうはいっても、実務的な事柄にたけた人がいなければ文化大革命も成功しません。毛沢東はそのような事情を理解して、一部の実務グループ(「業務組」という)を認めていました。
 興味深いのは、毛沢東に後継者と思われていた訒小平が、いかにして改革開放路線を成功させることができたのか、ということ。
 訒小平によれば、毛沢東の根本的な考え方は、新しいことを実験してみようという精神にあるという。だから改革開放政策を大胆にしても、そうしたやり方に、毛沢東は反対しないと思うよ、と発言することができた。
 訒小平は長年、毛沢東と一緒に暮らしていたので、そうした言い方が、説得力を持ったというのですね。こうしたレトリックに、訒小平の政治家としての力量を認めることができるのでしょう。