■思想は、親しんで感化されることが大切

法思想の水脈

法思想の水脈

森村進編『法思想の水脈』法律文化社

森村進様、執筆者の皆さま、ご恵存賜りありがとうございました。

 思想史というものは、長年、その対象に親しんで感化を受けた人(親炙(しんしゃ))が執筆しなければ、記述が平坦になりがちで、読者の印象に残らないというのはその通りだと思います。通史としての思想史を書くことができる人もいますが、それよりも、それぞれの思想史上のテーマについて、思い入れを持って研究した人に、思い入れを持って書いていただくことがやはり最適でしょう。その意味で本書は、大変興味深い内容になっています。
 グロティウス(1583-1645)はオランダで神童と呼ばれた人で、35歳までは、秀才型の教養人として成功します。自然法と万民法のもとでは、海洋の独占権は認められないという彼の主張は、当時の文脈では、スペインとポルトガルによって覇権が確立された16世紀の世界秩序に反対するものでした。
 ところがグロティウスは、政治家として失脚します。終身禁固刑に処せられます。三年間、幽閉生活を送りましたが、脱獄してパリに亡命します。そこでフランス王ルイ13世に保護され、不朽の名作となった『戦争と平和の法』を完成させるのですね。
 ただこの本は、ビアトリアなどのサラマンカ学派からの引用が大量にあるため、独創的ではなく、むしろ中世的なスコラ神学の伝統のなかにあると批判されています。
 しかし『戦争と平和の法』は、その後の度重なる再版や、本書に関する多くの注釈や研究が発表されることで、しだいに広まっていくのですね。