■ロシアにとってシリアは地政学的に重要


軍事大国ロシア

軍事大国ロシア


小泉悠『軍事大国ロシア 新たな世界戦略と行動原理』作品社

小泉悠様、ご恵存賜りありがとうございました。

 ロシア軍事研究の決定版ではないでしょうか。マニアックな情報を含めて、徹底的な探求の成果であると思いました。
 ロシアにとって、シリアとは軍事的にどのような意義を持つ国なのか。
 ロシアは中東諸国に武器を売って儲けているわけですが、シリアも大口の顧客です。しかし、シリアには資金がないため、ソ連時代の134億ドルの債務のうち、73%にあたる98億ドルは、帳消しになったのですね。それでもロシアがシリアに関心を持ち続ける理由は、どこにあるのでしょうか。
 ひとつには、ロシア外務省が、シリア高官とのあいだに、さまざまな利益共有関係を築いてきたというセクショナリズムの存在。もう一つは、シリアにおける民主化運動が、ロシアに与える影響を恐れているということ。第三に、西側への対抗策。アメリカはトルコに弾道ミサイルパトリオット)を配備したが、これに対抗する必要があるということ。
 こうした理由から、ロシアにとってシリアは大切なのですね。
 ただ興味深いことに、アサド政権が劣勢になってくると、ロシアは2012年ごろから、反体制派と体制派の対話を支持して、アサド政権の退陣を視野に入れた和平を認める姿勢を示しています。
 ロシアにとって大切なのは、アサド政権ではなく、シリアという国の地政学的な位置なのですね。