■野球は、近代合理主義に抗する人生観・倫理観を提起する

高校野球の経済学

高校野球の経済学

中島隆信『高校野球の経済学』東洋経済新報社

中島隆信様、ご恵存賜りありがとうございました。

 高校野球にかかる費用は、部費、父母会費、ユニフォーム、遠征費などを含めて、一人当たり、年間23万円以上です。毎月約2万円はかかっているのですね。
 練習時間も突出しています。2013年の「高校野球実態調査」によると、平日は3-4時間、休日は7時間の練習をします。平均値です。
 球児たちは、平均して、3年間で、4000時間を野球に費やしているのです。ある強豪校のホームページには、週の練習時間が「34時間」とあり、これは同校のサッカー部の練習時間の二倍にあたるそうです。
 高校生の授業時間は、3年間で3000時間程度です。野球部の練習時間は、これを余裕で上回っていますね。この4000時間という膨大な時間を、すべて勉強に捧げるような人もいるかと思いますが、おそらく少ないでしょうね。4000時間を費やすに値する青春とは、日本ではおそらく、野球以外に考えにくいでしょう。
 それにしても野球というのは、不可解なスポーツです。
「試合ではほとんどの選手が動いていない」「試合の制限時間がない(しかも長い)」「道具や設備に金がかかる」「審判への依存度が高い」「勝利の不確実性が高い」「練習時間が長い」という特徴を持っています。
 こうした特徴は、お金を節約して効率的に努力すれば、それなりに報われる、といった近代合理主義の人生観・倫理観とは大きく異なっていますね。野球の魅力とは、ある意味で、近代的な価値観に抗する、そのドラマ性にあるのではないでしょうか。