■「和む」ことは「福祉」の理念の一つ


山脇直司Glocal Public Philosophy
Institut International de Philosophie

山脇直司様、ご恵存賜りありがとうございました。

 ドイツでの出版ですね。公共哲学の網羅的な整理になっています。いろいろな日本人も出てきます。
 最後に、グローカル公共哲学が行きついた理念は、「和」であり、また「輪」、人々の苦悩を和らげる柔軟な平和のための連帯、というわけですね。
 「和解」「人間の輪」「平和」「調和」「和らげるmitigate」「慈悲」「和む(なごむ)」という理念の系列があります。
 私は次のように考えます。こうした系列の理念は、緊張した理性の動きとは異なり、人を弛緩させるような作用をもちますが、それはすなわち、理性や攻撃的な心性が弛緩されたところに生まれる社会秩序というものであり、これは公共性というよりもむしろ福祉のテーマです。福祉からみた公共性です。実はこれは、アーレントハーバーマスも語らなかった社会秩序の次元であり、「福祉国家」の「福祉」をこのような観点から理解するとき、権利としての福祉論や、ケイパビリティ論などとも異なる次元が見えてきます。たしかに、「和む」ことが一つのコミュニケーションとして求められる場面は、福祉サービスのなかでもそれほど多くはないのでしょう。しかしこの視点から、諸々の福祉サービスの在り方を再検討してみる価値はあると思います。また「福祉」や「ウェルビイング」の理念を再規定する意義があると思います。