■「貧困の罠」対策には新自由主義政策を

鈴木亘社会保障亡国論』講談社現代新書

鈴木亘様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 リーマン・ショック後の2008年の暮れに、失業者の増大で東京の日比谷公園に「年越し村」が設営されました。
 するとその後、生活保護費は急速に増大し、とりわけ、「働けるのに働かないで生活保護費を受給している人」(「その他の世帯」に分類される人)たちの割合が増えました。
 もちろん経済危機によって生じる失業問題への対応として、一次的にそのような「働けるのに働かない、働きたくても働けない」人たちに生活保護費を支給することは必要でしょう。しかしいったん生活保護費を受け取ると、今度は、働いても損をしてしまうという状況が生じます。生活保護費をもらうと、「貧困の罠」から逃れられなくなる、という問題があります。
 この問題に対応するには、最低賃金を上げて「働くインセンティヴ」を高めればよいのでしょうか。
 本書の提案は、M.フリードマンの「負の所得税」の発想に従うもので、つまり、最低賃金を安くして、もっと雇用を創出すると同時に、所得が一定額に満たない人には、働いた分に政府が給付を上乗せするという、「給付付き税額控除制度」を取り入れることが望ましい、というものです。
 このようないわば「新自由主義」的な発想の政策をとるべきなのかどうか。
 いずれにしても、このままバラマキ財政を続ければ、2050年に消費税率30%超、国民負担率70%超になる、という試算ですね。
 抜本的な改革の必要性を、政治家たちはきちっと説明しようとしないので、結局のところ、大きな経済危機が到来しなければ、私たちは自主的かつ内生的に改革することができないのかもしれません。国民もまた、このような改革の必要性から目をそむけていたいと思っているのかもしれません。できれば政治家たちに欺いてもらいたい、それでうまくいくなら危機を先延ばしにしたい、という心理が働くのではないでしょうか。