■現行憲法の解釈変更で集団的的自衛権
- 作者: 平山朝治
- 出版社/メーカー: 中央経済社
- 発売日: 2015/12/09
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平山朝治様、ご恵存賜りありがとうございました。
集団的自衛権の行使を、現行憲法の解釈変更によって認めることは、なるほど可能だと思いました。
1955年ごろから日本政府が言い続けているのは、「自衛のための必要最低限度の実力は戦力ではない」という解釈ですね。この政府解釈がかりに正しいと前提すればの話ですが(ただこれは間違っているのではないか、と私は思いますが)、集団的自衛権は、解釈の延長に位置付けられるでしょう。
もちろん、その場合の集団的自衛権は、制約されなければならないでしょう。私は基本的に、集団的自衛権の行使に賛成です。日本も世界平和に向けて、集団的自衛のための国際関係を築き、それを世界大に拡張していく必要があると思います。
ご指摘のように、「集団的自衛権」という言葉の定義が日本では誤った語句によって定義されてきたために、問題が生じているのでしょう。日本が攻撃されていない場合に、はたして日本が集団的自衛の関係を結んだ他国を武力でもって助けることができるのかといえば、それは集団的自衛の概念を拡張して解釈した場合に問題になるとしても、無理でしようね。基本的には日本を含めたいくつかの国が武力攻撃を受けた場合を想定して議論を進めるべきですね。
■育児休暇は育児義務とセットで
- 作者: 原伸子
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2016/02/25
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原伸子様、ご恵存賜りありがとうございました。
1990年代の後半以降、福祉国家の理念が問われ、再規定されるようになりました。イギリスではフリートランドとキングの議論があります(196頁以下)。それによると、福祉の受給者と国家は契約関係を結ぶとされます。どんな契約か。例えば、国民は、読み書きできる能力を身につけなければ、権利を失う、といった契約です。「読み書きができない」人は、失業者になったときに、失業手当を支給されない、と。
イギリスでは、そのような失業者は、「読み書きの再教育」を受講しなければ、失業手当を打ち切るという制度が導入されているのですね。福祉の受給者は、一定のスキルを身につけて社会に貢献するという責任を果たさないかぎり、福祉を受給されないというわけですね。
これは一見するとリベラルなようで、不寛容でもあります。こうした福祉政策は、労働者を「自律した市民」として規律することを含んでいます。労働したいのかどうかといった人格の中身に立ち入らずに福祉を支給するという、従来型のヒューマニズム的なリベラルの福祉政策とは異なります。「シティズンシップ論」はこの場合、主体的自律の権力作用を肯定する理念として用いられますね。
この点を明確にしているのは、1998年のイギリス、ニュー・レイバーの『New Ambitions for Our Country』です。
福祉の支給水準が、最低限度の生活の水準を超えて上がるとき、そこには「福祉漬け」による怠惰の生産という問題が生じます。福祉漬けによる怠惰も、進化論的に有意義なのだと弁護する立場もありうると思いますが、ハーバーマスも含めて、シティズンシップ、すなわち市民的参加のための基本的なニーズを満たすことは、公共の場面で自身をさらけ出し、政治的に一定の義務を果たすような主体を産出することを要請することになりますね。
このような市民的義務論の延長で、男性と女性の労働者が、どの程度まで家事や育児にかかわるべきなかを、市民的な観点から義務化する、具体的には「育児休暇」を制度化する、という方向性が考えられます。シティズンシップ論からケア・レジームへの道徳的義務の拡張です。市民であるまえに、あるいは市民であることに加えて、「父としての義務」「母としての義務」を制度的に支援するという方向ですね。
この場合、育児の義務を自律的に果たしていない人は、育児休暇を取り上げられることになるでしょう。そのような監視権力の作動とセットで、ケア・レジームを考える必要があるでしょう。
■ポストケインジアンは、アベノミクスの代替案をもつのか
- 作者: 諸富徹,大澤真幸,佐藤卓己,杉田敦,中島秀人
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/02/25
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鍋島直樹様、ご恵存賜りありがとうございました。
ポスト・ケインジアンの見方では、金融化が進むと、投資支出が停滞する。所得分配も不平等になる。するとさらに、消費支出が減る。こうしてつまり、金融化は、消費の減退をまねくというわけですね。
消費の減退を抑えるためには、政府が諸企業を指導して、名目賃金を引き上げるように要請する政策が有効になります。そのためには「よく組織された労働組合と経営者団体とによる全国レベルでの集権的な賃金交渉制度が必要」というわけですね(73頁)。
あわせて最低賃金制度における最低賃金も、引き上げる必要があると。
目標としては、名目賃金の引き上げが、生産性上昇に目標インフレ率を加えたものに等しくならなければならない、ということになります。
しかしこの政策を実現するためには、企業内部での賃金交渉に政府が干渉するという、マクロ的なコーポラティズムの体制を復活させる必要がありますね。それから、目標インフレ率が、本当に達成される必要がありますね。政府がこのインフレ政策に失敗すれば、名目賃金の引き上げは、企業の収益を悪化させてしまいます。
いま私たちが直面しているのは、金融緩和とコーポラティズムによるこのインフレ・ターゲット政策が、機能していない、という事態です。この場合、ポスト・ケインジアンは、どのような代替的政策を提案するのでしょう。
■再生エネルギー電力の固定価格買取制度は失敗だった
- 作者: 吉田文和
- 出版社/メーカー: 日本評論社
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吉田文和『ドイツの挑戦 エネルギー大転換の日独比較』日本評論社
吉田文和様、ご恵存賜りありがとうございました。
日本では2012年から再生エネルギー電力の固定価格買取制度が導入(実施)されましたが、それから2年たって、認定を受けた太陽光発電は、全体の95%を占めたのですね。
ところが運転開始率は、二割程度に過ぎないというわけですね。
もし100%稼働したら、既設の発電設備容量を上回ってしまう。だから再生可能エネルギーの供給を抑制せざるをえないのだと。
問題はそもそも、この買取制度(FIT)に根本的な問題があったに違いありません。
まずこのFIT制度の買取は、具体的な数値目標があいまいで、しかも買取は、原子力とのミックスで考えられてきた。原子力発電をなくしてまで、買取はしない、ということになっていた。
また、再生可能エネルギーの送電網への優先接続が、保証されていません。いつで技術的な理由で、再生可能エネルギーの接続を拒否できることになっている。これでは再生可能エネルギーを供給する会社は、リスクが大きくて慎重になってしまいますね。
最大の問題点は、太陽光電力の買取価格設定が、ドイツの二倍であり、それが太陽光エネルギーの供給バブルを招いてしまったことでしょう。政府は価格設定に失敗したのであります。
また、もし認可された事業者が実際に再生エネルギーを供給しなかったら、しかるべき時点で認可を取り消すべきなのですが、「実際の事業は後でもよい」という、「空押さえ」を許すことにしてしまったのですね。
これでは事業者は本気で供給するためのインセンティヴを失います。後で導入したほうがいっそうコストダウンできるでしょうから、どうしても導入に遅延が生じてしまう。後知恵でいえば、最初に買取価格において、変動の余地を残して制度設計すべきでした。
もちろん、社会主義経済計算論争において問題になったように、オスカー・ランゲのいうような価格の試行錯誤を政府主導で行う場合にも、やはり問題が生じるのでしょう。はたして再生エネルギーの供給は、価格の人為的な変動によって最適化されるのかどうか。本当は、この次元で政策を争うべきところであったと思います。ランゲのいっていることは、実践的に有効なのかどうかです。
■野球は、近代合理主義に抗する人生観・倫理観を提起する
- 作者: 中島隆信
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
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中島隆信様、ご恵存賜りありがとうございました。
高校野球にかかる費用は、部費、父母会費、ユニフォーム、遠征費などを含めて、一人当たり、年間23万円以上です。毎月約2万円はかかっているのですね。
練習時間も突出しています。2013年の「高校野球実態調査」によると、平日は3-4時間、休日は7時間の練習をします。平均値です。
球児たちは、平均して、3年間で、4000時間を野球に費やしているのです。ある強豪校のホームページには、週の練習時間が「34時間」とあり、これは同校のサッカー部の練習時間の二倍にあたるそうです。
高校生の授業時間は、3年間で3000時間程度です。野球部の練習時間は、これを余裕で上回っていますね。この4000時間という膨大な時間を、すべて勉強に捧げるような人もいるかと思いますが、おそらく少ないでしょうね。4000時間を費やすに値する青春とは、日本ではおそらく、野球以外に考えにくいでしょう。
それにしても野球というのは、不可解なスポーツです。
「試合ではほとんどの選手が動いていない」「試合の制限時間がない(しかも長い)」「道具や設備に金がかかる」「審判への依存度が高い」「勝利の不確実性が高い」「練習時間が長い」という特徴を持っています。
こうした特徴は、お金を節約して効率的に努力すれば、それなりに報われる、といった近代合理主義の人生観・倫理観とは大きく異なっていますね。野球の魅力とは、ある意味で、近代的な価値観に抗する、そのドラマ性にあるのではないでしょうか。
■日中の労働交換比率
- 作者: 松尾匡,橋本貴彦
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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松尾匡様、橋本貴彦様、ご恵存賜りありがとうございました。
1995年から2007年にかけて、中国と日本のあいだの「労働交換比率」がどのように推移したのかを示すグラフは興味深いです。
同じ1万ドルを用いて、輸出財を交換するとしましょう。例えば、日本で1万ドルのハイテク製品を生産して中国に輸出し、逆に中国からは、1万ドルの農作物を日本に輸入したとしましょう。
このとき、日本から中国に輸出する製品に対して、日本人が費やした労働時間が1時間であるとすると、中国から日本に輸出する製品に対して中国人が費やした労働時間は、1995年の段階で37.14時間、2007年の段階で8.29時間、であったというわけですね。
マルクスの立場からすれば、これは日本人が中国人を搾取した、ということになるでしょうか。
もう一つの興味深いデータは、アメリカと日本において、100万ドルの純生産物を生産する際に、どの程度の二酸化炭素(CO2)を排出しているのか、です。2007年の段階で、アメリカの場合は、電気・ガス・水道部門において、100万ドルの純生産物に対して、9,129トンの二酸化炭素排出量です(これは直接・間接の両方を含めた値です)。これに対して日本の場合は、3,848トン。半分以下だったというわけですね。この比較は、ぜひ他の諸国のデータも含めて、追跡していただきたいです。
■ロシアにとってシリアは地政学的に重要
- 作者: 小泉悠
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小泉悠『軍事大国ロシア 新たな世界戦略と行動原理』作品社
小泉悠様、ご恵存賜りありがとうございました。
ロシア軍事研究の決定版ではないでしょうか。マニアックな情報を含めて、徹底的な探求の成果であると思いました。
ロシアにとって、シリアとは軍事的にどのような意義を持つ国なのか。
ロシアは中東諸国に武器を売って儲けているわけですが、シリアも大口の顧客です。しかし、シリアには資金がないため、ソ連時代の134億ドルの債務のうち、73%にあたる98億ドルは、帳消しになったのですね。それでもロシアがシリアに関心を持ち続ける理由は、どこにあるのでしょうか。
ひとつには、ロシア外務省が、シリア高官とのあいだに、さまざまな利益共有関係を築いてきたというセクショナリズムの存在。もう一つは、シリアにおける民主化運動が、ロシアに与える影響を恐れているということ。第三に、西側への対抗策。アメリカはトルコに弾道ミサイル(パトリオット)を配備したが、これに対抗する必要があるということ。
こうした理由から、ロシアにとってシリアは大切なのですね。
ただ興味深いことに、アサド政権が劣勢になってくると、ロシアは2012年ごろから、反体制派と体制派の対話を支持して、アサド政権の退陣を視野に入れた和平を認める姿勢を示しています。
ロシアにとって大切なのは、アサド政権ではなく、シリアという国の地政学的な位置なのですね。