■オープン・ガバメントは、オープン・カンパニーの可能性を示唆

ハイエクの経済思想: 自由な社会の未来像

ハイエクの経済思想: 自由な社会の未来像

吉野裕介『ハイエクの経済思想』勁草書房

吉野裕介様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 これまでのご研究を濃縮して、新しいハイエク像を描くことに成功していると思います。
とりわけ第八章で、オライリーの「オープン・ガバメント」論とハイエクの比較がなされている点は、たいへん興味深いです。
 知の創造性と文化進化の作用を高めるためには、たんに市場競争を促すだけではうまくいきません。人びとが互いに「切磋琢磨」して、「公共的な次元で活躍したい」というインセンティヴを取り込む必要がありますね。そのようなインセンティヴを利用するためには、政府は情報の公開性・透明性を高めて、誰もがその運営に携わることができるようにすることができます。そのような「オープンネス」を実現することで、政府に対する信頼性も高まり、支配の正統性が確保され、人々の自発的な奉仕心を引き出すことができるのでしょう。
 この「オープン・ガバメント」の考え方は、ハイエクとは異質ですが、しかし従来の福祉国家の考え方にもありませんでした。いずれにせよ、オープンにすれば、政府の機能を悪用する人も生まれるわけで、そのような人たちに対応するコストが高くつけば、うまくいかないでしょう。政府の理念を内面化して、そのサービスを安価に担う市民が生まれなければ、オープン・ガバメントはうまくいきません。
 このオープン・ガバメントの考え方を、今度は逆に、民間企業に応用してみるとどうでしょうか。次のように考えてみました。
 民間企業は、その運営の透明性をできるだけ高め、誰もがその運営について批判的に検討できるようにする。またその企業の理念と活動に賛同する市民のだれもが、自発的にその企業のために奉仕したり、あるいは批判的かつ建設的な意見を述べたりできるようにする。そのような参画は、政府とは無関係ですが、公共的な活動といえます。しかし民間企業とその消費者たる民間人の連携を高めて、民間企業をいっそう創造的な組織にすることができるかもしれません。
 オープン・ガバメントの議論は、このように、「オープン・カンパニー」の可能性を示唆しているように思います。オープン・カンパニーは、たんに市場競争という自生的秩序のなかで淘汰に晒されるのではなく、ひろく文化進化の文脈で発展していく可能性を秘めています。こうした考え方はハイエクを超えて、新しい経済思想の可能性を示唆しているかもしれません。